誰だって振り返ってみれば、“人生を決定づけた出会い”がいくつかあるんじゃないかと思う。中でも小心者だった私には、「アレと出会わなければ今の自分はなかった」と言い切れる映画がある。吉川晃司主演の青春映画、『すかんぴんウォーク』がそれだ。
なんといっても、冒頭がスゴい。映画は東京湾の空撮シーンから始まるのだが、その海の彼方に突如、がむしゃらに泳ぐ一人の青年が現れるのだ。しかもその泳ぎというのが、クロールでも平泳ぎでもなく、なぜかバタフライ。バッシャーン、バッシャーン。上半身ハダカの男が、真っ昼間の東京湾で、激しく両手を振り回してのバタフライである。それも、広島から上京して、一旗揚げるがために。
かっくいいぃ〜!! コレだよ、コレっ!! 当時、中学生で水泳部員だった私は、その名の通り蝶の舞のように華麗な吉川さんの泳ぎっぷりと、その若気の至りっぷりに、ド肝を抜かれてしまった。きっと青春とは、どれだけバカなことに一生懸命になれるか、なのだ。私は強く心に誓った。いつかは大阪を出て、私も東京へ行こう。行くときは、何が何でも裸一貫、バタフライでだ、と。
やがて私は18歳になり、とうとう上京の日がやってきた。待ってましたである。いよいよバタフライである。だが、母は私のナイスなアイデアを許してはくれず、私に懇願した。
「頼むからあんた、フツーに新幹線で行ってぇ〜な!!」

そんなこんなで私は泣く泣くバタフライでの上京をあきらめたのだが、その3年後、私に絶好のチャンスが訪れる。インドへひとり旅に出たのだ。これがバタフライせずにいられるものか!
かくして私は、親の目の届かぬガンジス河で、バタフライをするに至った。そして泳ぎながら、こともあろうに河で泳いでいた人をブッ叩いてしまったのだが、なんとそれはプカプカと浮かんでいる死体だったのだ。
何はともあれ、そのときのハチャメチャなインド旅行が一冊の本になり、『ガンジス河でバタフライ』なんていうタイトルがついたりするから、一本の映画で人生がどうなるか分かったもんじゃない。そう考えると、体を動かすこととは無縁な私だけど、誰かに触発されてある日突然、フラダンスを始めることになるかもしれないし、あるいは、今は英語もロクにしゃべれないけど、外国人の彼氏ができて海外に移住するような日がくるのかもしれない。どうも人生ってヤツは、どんな人やモノに出会うかで、いかようにも変わるし面白くなるようなのだ。だから私はなるたけ「自分は絶対こういう人!」なんていう風に決めてしまいたくないと思っている。そして、いまだに海外へひとり旅に出て新たな河に出会う度に泳がずにはいられなくなることを思うと、私の青春はまだ続いているようなのである。
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