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クレームが好きという人はあまりいないでしょうが、そんな時にあやまるというのは意外に勇気のいるものです。私にはこんな経験があります。
九州から上京してきた友人と、浜松町から池袋にでた時のことです。昼間のすいている山の手線、3人がけの席に友人と私が座り、連結に近い席は空いていました。鼻をかみたくなったので、ひざに乗せていた荷物を落としてはいけないと思い、隣の空いている席においた時でした。五十代の男性が、その席に座ろうと思ってきたのでしょう、おいてあった荷物を見て怒りだしたのです。「女はこんなことするんだ。おばさんはイヤダヨナー」等。私がいくらあやまっても、事情を話しても、聞く耳をもってくれませんでした(もっとも、自分の席に座ったままで言っていました)。あまりグダグダ言うので、こんなおじさんは無視しようと思ったのですが、「次は池袋!」の車内放送を聞いた時、冷静に考えようと思い直しました。「確かに、私はおじさんのじゃまをするつもりはなかった。ただ、鼻をかむために荷物をおいただけ…。でも、おじさんにしてみたら自分が座ろうと思って来た時に荷物がおいてあったのだから、結果的にじゃまをしたことになった。それだけはきちんとあやまっておりよう」と思いたったのです。
池袋駅のホームに電車が入り、ドアが開くタイミングをみはからっておじさんの目の前にきちんと立って、アイコンタクトをし「ほんとうにすみませんでした」と頭を深く下げました。そして、あいたドアからホームに逃げるようにとびおりました。その時、私の背中に向かって、その人が「ありがとうよ! 気をつけてな」って言ったのです。意外な言葉にびっくりしました。友人から「言っておりてきてよかったね。あの人の一言で、車内の雰囲気よくなったわよ」となぐさめられました。
ほんとうは、あの場から早く逃げだしたかったのですが、客観的に自分を見て、勇気をだして行動してよかったと思いました。自分ではそのつもりがなくても、相手に不快な思いをさせてしまった時には、逃げないで誠心誠意ぶつかっていくことが大事だと思いました。おわびをする時も、本気になってあやまることが大切ではないでしょうか。
岩下宣子(現代礼法研究所主宰・マナーデザイナー) |