
テレビ番組で歌手が、亡くなった恩師の思い出を司会者から聞かれたとき、
「先生はいつも“歌は心で歌え”と申しておりました」
と、返事をした。彼の話し方には、恩師を思う気持ちがあふれていたのだが、「申す」も「おります」も謙譲語あるいは丁寧語であって尊敬語ではない。「おっしゃっていました」で十分。大好きな歌手だったので内心、“私が傍にいれば前もってチェックしたのに。ざんね〜ん!”と、悔やんだのだった。
このへりくだって言う謙譲語と尊敬語を取り違える例は多い。「ご主人おりますか?」「頂いて下さい」などである。言われるたびに「ハイ、おりますっ!」「頂きますっ!」と反撃するが、あまり効果がない。これは、「おられますか」か「いらっしゃいますか」。「頂いてください」は、「召し上がって下さい」が正しい。また、敬語を使う相手を間違える場合も結構多い。ウチには、真っ白の毛にブルーの瞳のネコがいるのだが、お客様に必ず「まあ! きれい! 何を召し上がっていらっしゃるのですか?」と聞かれる。以前はよく「ネコにえさを、子供にお乳を、植木に水を、あげる」が蔓延し、“あげるは目上の人に使うもの”と問題になったが、それを飛び越えてしまった。人間の私を差し置き、ネコがセレブになったような気分。さらに、知人がレストランでおばさんのウエイトレスに言われたそうだ。「おビール、まだ入っていらっしゃいます?」。
おばさんがこうなら、若い女性はもっと大変。店のカード会員になるのを勧めるのに、「会員になってくれるとぉ、すごくおトクにお使いして頂けますっ!」。どう返事をしていいのか、こちらもすごくお困りした。彼女の場合は熱心さが体からあふれていて、形式的な敬語を使うより好感が持てたが、出来ればきちんとした敬語を、その心意気で使って欲しい。
正しい敬語を身につけるには、労を惜しまず良い本や先輩を探して勉強し、失敗を恐れず実際に使って馴れる事。これが一番の近道である。
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