●自転車に乗って
2日目は早起きして、朝の別荘地を散策。とっても気持ちのいい空気。鳥のさえずりがシャワーのようにあちこちから聞こえてくる。黄色いヘルメットをかぶったランドセル姿の子ども達が、森の中を学校へ向かっている。お腹に大きな時計を下げたおじさんがニコニコ顔で交通整理。とてものどかで爽やかな朝。
朝食は昨夜の残りを電子レンジで“チン”していただく。朝食後のスイーツは旧軽銀座で見つけたまろやかなプリン♪ お腹も大満足で、ホテルを出た。
前日みんなで選んで買ったインド綿のロングスカート姿で登場したIさん。敏感肌のため日焼けを恐れ日傘を手放さないYさん。サイクリングにしてはちょっと風変わりな2人だけど、新緑の森に点在する別荘地を通る道を走りぬけ、旧三笠ホテルへと向かった。
明治38年に建てられた旧三笠ホテルは、日本人の手による純西洋式木造ホテルとして評価され、国の重要文化財に指定されている。当時の最先端、最高級の設備が整えられていたという内部を見学。シックな西洋家具が置かれた客室を抜けると、窓際にさりげなく椅子とテーブルが置かれていて、窓辺の風景を楽しめる空間になっている。そこから見える美しい新緑の風景を、当時の人も同じように楽しんでいたのだろうか。軽井沢の歴史を肌で感じて、なんとなくタイムスリップした気分にひたる3人。
次の目的地は、碓氷峠の見晴台。近くには熊野神社がある。そのそばのお店の力もちを食べに行くために、自転車を置いて、見晴台に続く遊歩道を歩き始めた。
●そんなはずじゃなかったハイキング
途中までは、見たこともないキノコを見つけてはしゃいだり、素敵な別荘に見惚れたりして、楽しくおしゃべりしていたのだが、だんだん険しい山道になり、そして誰ともすれ違わないことに気がつく。
「どのぐらいで着くのかなぁ」と不安がよぎる。
と、チリリン〜と音がして、中年のカップルが山道を下りてきた。
「あの、見晴台まで後どのくらいですか?」
「あ、そうね〜4、50分かなぁ」
「え? そんなに……」
「あの、そのチリリンって?」
「あ、これ? 熊除け」
「は? 熊……」
「あ、大丈夫だよ、滅多に出ないし。それに、しゃべってれば近づかないよ」
「ハハ、しゃべり続けるなら自信ありますがぁ、ハハハ……」
細い山道を一列になって歩く3人。真剣だが会話は途切れることはない。ひたすらしゃべり、歩く。だが、今度は誰も飲料水を持っていないことが発覚。あるのは、買い込んだけど食べずに残っていたトマト3個だけ。一応保冷剤の入った袋に入れて冷やしてある。
「ほんとに苦しくなったら食べるよ」
そう誓い合い、喉の渇きに耐えながら歩く3人。
「トマト食べたい〜」「まだダメ〜」「喉渇いたぁ」「我慢しな〜」「ちょっとなんかしゃべってよぉ」
休憩も入れずにひたすら歩くこと40分。
見晴台に着いた3人は、ベンチに座りトマトを頬張った。買ったまま洗うのも忘れてたけど、まだ少し冷たさが残っていて、とても美味しかった。
その後、念願の力もちとご対面。もちろんペロッとたいらげた。
「苦労したからこそ、こんなに美味しいんだよね〜」
ご満悦の3人は熊野神社に立ち寄る。長野県と群馬県の県境に境内があるこの神社は、各県ごとに主管の異なる二つの神社になっていて、お賽銭箱も2つ並んでる。なんとなくありがたさも2倍な感じで、それぞれたくさんお願い事をしたみたい。
●穏やかな時間をありがとう
自転車で旧軽銀座まで戻ると、“袋”を覗く。
「まだお金残ってるじゃん。コロッケ行こうか!」
揚げ立てで人気のコロッケ店に行きそびれていたことを思い出し、3個注文。並んでベンチに座り、熱々のコロッケを頂く。かなりご満悦、と同時に山登りの心地よい疲労感も……。でも旅の締めくくりの家族へのお土産探しは外せない。すっかり馴染んでしまった旧軽銀座で再びショッピング。
家族以外との初めての旅だったIさんのお土産はデラックス。ダンナさま用のお酒類やつまみを、真剣な眼差しでチョイスしていた。
「これで一緒に一杯やるんだぁ。行かせてくれてありがとう、楽しかったって言わなきゃ。だって、また絶対行きたいもん!」
なるほど。一方、仕事を始めてから、食後にソファでゴロッとして、テレビを観ながらうたた寝する楽しみを知ったYさんは、必需品のお菓子をゲット。
「ダンナが家にいるときは食事の仕度や片付けしてくれるんだ。私も仕事してる人の気持ちとか少しわかってきたし、いろんな意味で視野が広がった気がするよ」
ふーん。なんか素敵だね。2人の話を聴きながらわが身を振り返り、妻として母としてどうだったかなぁと、ちょっぴり反省したりしてる自分。
最後に、オープンカフェでスイーツをいただきながら、バスの出発までの時間をまったりと過ごした。“袋”の中身もきっちり使い切って、一人2万円の旅予算が、有意義な時間と楽しい思い出に変わった。不思議なほどスムーズでストレスのない2日間の旅だった。きっとがんばってる母たちへのご褒美だったのかなと、自分なりに納得して帰路に着く。
Iさん、Yさん、ありがとう。また行こうね! |