●朝の浅草寺
楽しい旅も、いよいよ2日目に突入した。
昨夜は21時に就寝したため、朝早くに目が覚めた。時計を見ると6時すぎ。これではいつもの起床時間と変わらないではないか! せっかくの休日、朝寝を楽しもうと思っていたのに……体内時計は思いのほか正確だ。
このまま早起きするのは悔しい(?!)ので、早速二度寝し、起床は9時。最強の12時間睡眠を心ゆくまで楽しんだ。
支度を整えてチェックアウト。いよいよ浅草寺参拝へ!
旅館は仲見世のすぐそばに位置しているので、移動はあっという間だ。仲見世に並ぶ店の多くは、参拝客を迎える開店準備で忙しそう。活気がみなぎっている。
「参拝の前には、まずは、おなかを満たさないとねー」と、妙なところで夫と意見が一致し、浅草名物あげまんじゅうを購入した。うん、いつ食べてもやっぱりおいしい!
浅草寺の本堂は、何度訪れても、風格あるたたずまいに圧倒される。現在の本堂は、東京大空襲で消失後、再建されたものだが、きっと江戸時代の人たちも、畏敬の念を持って本堂を見上げ、観音さまに手を合わせていたに違いない。
浅草寺といって思い出すのは、そう、例の「煙を体に浴びる」あれ。本堂前にある大香炉だ。私たちも早速、線香を購入し、献香。立ち込める煙を、おなかにいっぱい浴び、安産を祈願した。
その傍らで、肋骨周辺を中心に、黙々と煙を浴びる男性、1名。
夫だ。
この旅に出る少し前から肋間神経痛に悩まされていた夫は、真剣な面持ちで煙を浴びていた(おかげさまで、後日すっかり回復。浅草寺のご利益か?!)。
本堂をお参りした後は、おみくじを引いてみた。結果は何と……「凶」。かなり動揺。しかし、私はすぐに気持ちを切り替えた。
「いろいろなことがあるけど、気を引き締めてまじめに生活していけば、あとは登り調子ってことだよね!」。
物は考えようだ。前編でも記したが、この旅のパートナーでもある夫は常にプラス思考。この旅で、私も少しはその考え方が身についたのかもしれない。
●猫もまったり=\―うららか浅草散歩
浅草寺の参拝を終え、そのまま境内をゆっくりと歩く。昨日までの、小雨交じりの天気とうってかわって、時折日も差す、絶好の散歩日和となった。
境内には、何体ものお地蔵さんが立ち並ぶが、その中に「子育地蔵尊」を見つけ、二人で手を合わせた。お供えされた花は、楚々として、瑞々しい。街の暮らしの中に息づく信仰が感じられるひとコマだ。
そのまま、浅草に詳しい夫をナビゲーターに、ぶらり浅草の街へ。
伝法院通りは、商店街の景観が江戸の町並み風になっていて、往時の雰囲気を楽しめる。あちらこちらで視界に入る「モツ煮」の文字に心惹かれつつ、ガマンガマン……。浅草公会堂の前では、一匹の野良猫が、葉牡丹と隣り合わせに鎮座。近寄ると、「何か用?」とでも言いたげな、アンニュイな視線を投げかけてきた。こういうまったり≠オた雰囲気は、リラックスにはもってこいだ。
そして、浅草散歩のゴールは、アサヒビールタワー22階のスカイルームに定めた。浅草から隅田川越しに見える、金色のオブジェ&ビールジョッキを模したあのビルにある喫茶コーナーだ。
オレンジジュースとサンドイッチで、遅めの朝食。眼下には、この2日間歩き回った浅草の街を一望することができた。この日は、喫茶コーナーに先客がおらず、ぜいたくな空間を二人占め。ラッキー!
「かっぱ橋から雷門というと、昨日はあの辺りをぐるりと歩いたんだねえ」「泊まった旅館はあのあたりかな」と、浅草を俯瞰して、旅の行程のおさらい。遠くには、後楽園の観覧車、新宿の高層ビルも見渡すことができた。
22階から眺める東京の街に、暖かな日差しが降り注ぐ。何とも穏やかな時間だ。この旅が終わり、日常生活に戻っても、楽しいことがたくさん待っているような、そんな幸せな気持ちになった。
●さようなら、江戸
朝食を終え、私たちは、吾妻橋のたもとにある水上バス乗り場に向かった。ここを始発点として、浜離宮や豊洲など、さまざまな場所へ水上バスが運行されている。
旅の最終目的地に選んだのはお台場。乗船したのは、浅草とお台場を結ぶ水上バス「ヒミコ」だ。デザインを手がけたのは、「銀河鉄道999」などで知られる漫画家・松本零士氏。個性的な船体が特徴だ。
乗船時間が来て、船内に案内される。休日は、乗船1時間前にはチケットが売り切れてしまうほどの人気で、この日もカップルや親子連れなどで大賑わいだ。(早めのチケット購入がオススメ)。船体は平たく、外から見ると狭いかなと思えるのだが、実際に入ってみると、白を基調とした広々とした作り。両サイドにテーブルといすが設けられ、のんびりと景色を楽しむことができる。
両岸にはマンションや高速道路が目立つものの、古い建物や佃煮屋など、ところどころに古きよき江戸・東京を伺わせる建物も残っていた。私の好きな時代小説「剣客商売」には、隅田川を船で渡る シーンが頻繁に登場するが、実際に川を下ることで、東京は、暮らしのすぐそばにゆったりと川が流れる水の街≠セと実感することができた。
それにしても、川面を静かに進む心地よさは格別。隠れた癒しスポットとして、個人的に認定!
しばらくすると、視界が大きく開け、隅田川から東京湾に出た。眼前にどどーん≠ニそびえるはレインボーブリッジ! つい先ほどまで、浅草でぼんやりと江戸風情を味わっていたのがウソのようなその巨大ぶりに、思わずカメラのシャッターを切る。
「いきなり現代に戻ってきたって感じだねえ」と二人でしみじみとかみしめた。
昨日と今日、この短い間に江戸の雰囲気に触れただけなのに、もうすでに江戸町人な気分の私たち。浅草からお台場を結ぶ水上バスの乗船時間は1時間だが、江戸から平成までの140年の時間を、一気に駆け抜けたような気分になった。気軽にこうした体験ができる東京は、街自体がまるで巨大テーマパークのようだ。住み慣れた街も、旅気分で回ることで、新たな発見がある。お台場でハンバーガーをパクつき、江戸モード≠ノなっていた頭と体を、現代モード≠ノ切り替えながら、そんなことを考えた。
つわりが落ち着いた後も、体調が優れないことがしばしばあったが、この2日間は、体調もバッチリだった。きっと、思う存分旅行を楽しめるよう、赤ちゃんがおなかの中でおりこうさんにしてくれていたに違いない。うーむ、なかなか親孝行な子だ(生まれる前から親バカ?!)。そう考えると、何だかうれしくなり、おなかをなでて「どうもありがとうね!」と話しかけた。
夫婦二人きりで過ごすのも、あと半年。この旅を、大切な思い出として記憶にとどめておこう。そして、赤ちゃんが大きくなったら、きっと、この思い出を話して聞かせてあげよう。 |