●駒ケ岳へ急げ!
翌朝6時、起きるとすぐに浴衣姿のままで部屋を飛び出した私。エレベーター脇の壁は全面ガラス張りになっていて、山間から富士山の頂上付近を眺めることができるのだ。
<富士山はいるかな!?>
胸躍らせガラス越しに駆け寄ると、真っ白に雪で覆われた富士の頂が、透き通った空気の中にくっきりと姿を現わしていた。朝日を浴びた山頂が、光を発するかのように輝いている。雲ひとつない青空!
<行くっきゃない!>
芦ノ湖付近の天気は変わりやすく、空気の澄んでいる午前中、それも、できるだけ早い時間のほうが、富士山に出合える確率は高い。とにかく一番の駒ケ岳ロープウェイに乗らなければ! 交通費を節約するために湖尻まで歩き、バスで箱根園へ向かった。すでに芦ノ湖付近は雲で覆われ、隠れてしまっている富士山。「ほんとに合えるかなぁ」と不安を抱きながらロープウェイに乗る。本来なら機内からも雄大な富士山を望めるはずが、雲の固まりが遮ってまったく見えない。山頂に到着したロープウェイから降りると、すぐさま山頂の丘に飛び出した。
「すご〜い!」
裾野は海のように雲で覆われていたが、雄大な富士山の全容がくっきりと浮かび上がっていた。近くには雲の固まりが近づいていて、撮るなら今しかないとばかりに、山頂中央の高台に建てられた箱根元宮まで必死に駆け上がり、富士山にカメラを向ける。何度もシャッターを切った。ついでに携帯カメラにも収めた。撮り終わっても、駆け上がったときの荒い息は治まらなかった。落ち着くまでじっと富士山を眺める。
眼前の真っ白な富士山。刻々と変化する雲。ひんやりと吹き抜ける風。 <合えて良かったぁ。来た甲斐があったなぁ> 霊峰富士と呼ばれるだけに、見つめているだけで澄んだ気持ちになり、自然と合掌したくなってしまう。
<いい旅をありがとうございました>
●ひとり旅の醍醐味
駒ケ岳を後にして、バスですすき草原へと向かう。そこはすすきが広がる大草原。人の背丈よりも高いすすきの穂が、あたり一面に揺れている。見ごろは過ぎていたけれど、寂しさを漂わせながら、それでいて躍動感のある不思議な風景に、体が吸い込まれそうになった。
箱根湯本に戻ると、最後のお楽しみのために、バスで奥湯本へと足を伸ばした。日帰り温泉施設で、どっぷりと露天風呂に浸からないことには旅は終われない。歩き回った体をしっかり癒して元気になって帰らなくては!
自然の景観を生かした紅葉の美しい庭園にいくつもの露天風呂が造られ、温度や効能もさまざま。浸かりたいお湯に好きなだけ浸かり、湯のはしごを楽しむ。もう気分は極楽。頭を空っぽにしてゆっくりとお風呂を楽しんだ。純和風の休憩所も広々としていて、火照った体をゆっくりとクールダウンできる。帰り支度を済ませ、ラウンジでコーヒーをいただきながら、小さな旅を振り返った。
ひとりの時間を密度濃く過ごした二日間。黙々と歩いて、黙々と眺めて、黙々とお風呂に浸かった。旅の途中、気がつくと、家族で来たときのためのお勧めポイントをチェックしたり、子供たちへのお土産を探したり、<この景色見せてあげたいなぁ>と写真に収めたり……。
<子離れはまだ先かな>と思いつつ、それでも、究極のマイペースとも言えるひとり旅の醍醐味を、少しだけ味わえた気がする。行きそびれた名所や美術館、違う季節にも訪れてみたい場所や歩いてみたかったハイキングコースなど、心残りもあったが、次回のお楽しみがあるから旅は楽しいのかもしれない。
<ときにはいいね。自分とじっくり向き合える静かなひとり旅も>
ぜひ、手ごろな場所を見つけて、思い切って小さな旅に出てほしいと思う。できれば平日の空いてる時期に、家事や仕事を休んでゆっくりと! |