●ドライブデビュー
車を購入して、もうすぐ1年。いまでは車庫入れにも慣れ、行動範囲も広がった。そんな私が9年にもおよぶペーパードライバーを卒業したきっかけは、父の死だった。
父が亡くなる前に車検をとったばかりの車は、父の死後半年ほど、だれも運転する人がいなくて放置してしまっていた。免許を取得してから、全くと言っていいほど運転していなかった私は、なかなかハンドルを握る勇気が持てなかった。
しかし、いつまでも車を放置しておくわけにもいかない。はじめは弟に助手席に座ってもらい、少しずつ運転する距離を伸ばして、慣れることから始めた。父が握っていたハンドルを、自分が握ることで、父に守ってもらっているような安心感がヒシヒシと感じられた。
運転にも慣れて、ちょっとした買物にも車で行くようになった矢先、長年父が大事に乗っていた車を、電気系統の故障で廃車することになってしまった。残念だった。
すでに車のない生活が考えれなくなっていた私は、母に借金をしてマイカーを購入した。ペーパードライバーだったときには、まさか自分の車を持つようになるとは思いもしなかったが、徐々に愛着も湧いてきて、運転がとても楽しくなってきた。
「ドライブに行きたい!」
そう思い立ち、さっそく地元である千葉県、それも房総方面にドライブの旅に出かけることにした。すると「お母さんも行こうか?」と母が言う。いくら運転に慣れてきたとはいえ、知らない道を一人で運転する私が心配らしい。心配性の母に、私の運転技術を認めてもらうためにもいい機会だと思い、助手席に母を乗せ、初めての房総ドライブ旅行に出発した。
●ナビ事件
しかし出発早々、ケンカ勃発。
「この道は何度か通ったことがあるから分かるわよ」という母の言葉を信じて走っていたが、まったく違う方向へ向かっていたことに気づく。
「今いる場所を地図で確認してよ」と言う私に、「地図を見るのは慣れてないんだから、ちょっと待ってよ」と母。
初めて通る道は、両脇が田んぼで、バックミラーには後続車が何台も続いている。田舎道なのに、みんな時速60キロぐらいで飛ばしてくるから、のんびり走っていては、後からせっつかれてしまう。必死で流れに乗って走らせようとしているのに、地図が見れなくてあせっている母にイライラがつのる私。結局、途中で一時停車し、母の持っている地図を奪って現在地を確認し、再び走り始めたが、車内はお互いのイライラで、ムッとした空気が充満してしまった。
道を間違えてしまって落ち込んでもいる母。ここで私がさらに責めてしまっては、せっかくの癒し旅が台無しである。私も気持ちを切り替えることにした。
「どうせ道は続いているんだから、ちょっとぐらい遠回りしたって大丈夫だよ。海外の未開の地じゃあるまいし、分からなくなったら誰かに聞けばいいんだし、道も覚えられたから問題ないよ」
母も気を取り直し、必死で地図とにらめっこしてくれたお陰で、だいぶナビゲーションが上手になり、安心して運転できるようになった。
●得々セットに大満足
最初の目的地は、富浦にある「道の駅『おおつの里 花倶楽部』」。ここでは、房総の代表的な花を始め、四季折々の花や果物を栽培し、花摘みなどが体験できる。
実は、びわの3粒試食と花摘み、びわデザートが楽しめる「得々びわセット」を事前に申し込んでおいた。
花摘みのベストシーズンは終わってしまっていたが、ここはビニールハウスで花が栽培されているので、花摘み体験には十分だ。母と二人、合計6本。ちょっと時期は早いけど、父の日のプレゼントとして、父の仏壇に供える花を二人で選んだ。
ビニールハウスの中で汗だくになったところへデザートが! ソフトクリームの上にびわジャムとシロップ漬けが乗っている。それにびわジュースやもぎたてのびわも。<1000円でこんなに食べられるの!?>とびっくり。久しぶりに食べるびわは、木で熟しているので、ものすごく甘い。初めてびわがおいしいと思えた瞬間だった。
木陰に座り、山の木々が生み出すグリーンのグラデーションを見ながらデザートを食べていると、自然の中に置かれている自分がとってもちっぽけに感じられる。嫌なこと、面倒くさいこと、すべて忘れて大きく深呼吸。心も身体も開放されて、自然からのエネルギーがどんどん入ってきた。
今日一日、千葉の山々に囲まれた道を、窓を全開にして走った。心地よい風をたくさんあびた。天気にも恵まれ、すこぶる気持ちがいい。周りは山だらけだけど、BGMのサザンオールスターズの曲が私の気持ちを盛り上げてくれる。
長距離を無事に運転できたことで、自信が持てた私は、心地よい気分でハンドルを握り、宿に向かった。いよいよ明日は、一番楽しみにしていた海を見ながらのドライブだ。 |