●旅は道づれ
<ひとり旅がしたい!>
20代も後半になり、なんだかやり残していることがある気がして、じっくり自分を見つめたい衝動にかられていた。そんな折の「鎌倉いいよぉ。お寺や神社とか、美術館もあるし。行ったことないの?」という友人の一言が気になって仕方がない。
もともと「城」が好きで、それ目当てで、家族や友人と幾度となく国内外に旅していた私。そういえば、都心から電車でわずか1時間という近場なのに、今まで一度も訪れていなかったことに気づく。お寺や神社の独特な気配、静けさや荘厳さが好きな私は、まだ見ぬ鎌倉の地に心魅かれた。
<そうだ! 鎌倉にひとり旅しよう>
そう思い立ち、ひとり旅プランを母に話したところ、「私も一緒に行きたい」という思わぬ反応が。普段の母はとても忙しい人だから、毎日セカセカしていて、ゆっくり話す機会などない。<これはひょっとすると、日頃なかなか話せない事を、語り合えるいいチャンスになるかも!?>と考え、プランを変更し、母と一緒に鎌倉へ出かけることにした。
●サプライズ!
初めての鎌倉は、思いもよらぬ感動の連続だった。キュートな江ノ電(江ノ島電鉄線)にドキドキしながら揺られ、湘南の海を眺めつつの美味しい料理に酔いしれ、雨の中の大仏さまの美しさに釘付けになり、外国人観光客の多さに目を丸くした。母とふたり、日常の目まぐるしさから解放され、悩み事までどこかに吹っ飛んで、ただただ雨降りしきる鎌倉の魅力を堪能してしまった。
初日の終わりに訪れたのは、かわいい猫が出迎えてくれた「葉祥明美術館」。大好きな絵本作家・葉祥明さんの作品を楽しみにしていた私。ロマンチックな洋館に「かわい〜い!」と絶叫し、洋館の写真を撮りまくってしまった。
展示されていたどの作品も、色彩が繊細でとても美しかった。やっぱり原画でなくちゃ本物の美しさを知ることはできない。海岸や草原など広大な風景の中に、小さな被写体が一つだけポツンとあるレイアウトがとても印象的だった。
最近、リリー・フランキーの『東京タワー』という本の中に出てくる「母親というものは」という詩が印象深く心に刻まれていたのだが、なんと! 葉さんの詩作品として展示されていた。サプライズな出来事に大感動!
●心地よい疲れ
材木座海岸沿いのこじんまりとしたホテルで一泊。今回の旅で、海を見ることが一番の楽しみだったという母は、部屋の窓から身を乗り出してはしゃいでいた。「見て! 海よ、海!」と、テンションが上がったままの母。
夜の不気味な海を眺めながら、家でのひとコマと同様、テレビを見つつ雑談。ウェルカムドリンクのワインを飲み、のんびりとベッドに横になると、思わず「あ〜幸せだ〜」というセリフが出てしまう。毎日家事に追われている母は、少し手持ち無沙汰の様子。あんなに夢中に歩き回ったのだから、さぞ歩き疲れてクタクタだろうと思い、ふと顔を覗くと、すでに寝息を立てていた。
『どんな高価な贈り物より/我が子の優しいひと言で/十分過ぎるほど幸せになれる/母親というものは/実に本当に無欲なものです』
美術館で再会した葉さんの詩の一節を思い出した。<忙しいのに旅に付き合ってくれたんだから、明日は優しい言葉をかけてあげよう>なんて、妙に素直に思ってしまった。心癒してくれた鎌倉のお陰かな。明日も一日ふたりで楽しもう。 |