
私は、株式会社益田屋の社長として東京本社を上海姉妹店の経営に力を注ぐ一方、茶道具や美術工芸品の展示会をプロデュースしたり、裏千家専任講師として茶道教室やお茶会を開いたりしております。
どんな職業も同じですが、自分一人でできる仕事など一つもありません。必ずそこには、いろいろな立場の方が関わり、支えてくださいます。私も、お客さまをはじめ、茶道やさまざまな世界でご活躍の先生方にお力添えを頂いております。
仕事でもプライベートでも、人間関係をより良いものにするためには、信頼を築けるかどうかがポイントになります。そのため、私は職場では仕事の心構えとして常々、「あいさつ」と「メモを取る」という二つのことを社員に伝えています。
たとえば、接客中にお客さまからのご要望を受けたとします。その場のやりとりの中では理解し、把握したつもりでも、その後すぐに対応できるとは限りません。時間が経ち、話の内容を忘れてしまうかもしれません。だから、メモを取るのです。
これは決して新入社員の心得などではありません。たとえ何年仕事をしていても、そうした小さなことに心遣いを忘れてしまっては、お客さまとより良い関係は築けません。
また社員にはいつも、ホテルのコンシェルジュ(案内係)のような接客を理想としてほしいと話しています。ホテルを利用されるお客さまには、さまざまな方がいらっしゃいます。そうした中で、コンシェルジュはどんなお客さまにも笑顔で接しています。どんな注文、苦情でもまずは一度お受けする。「お客さまは神さま」という言葉がありますが、相手に不快な思いをさせないよう、細心の心遣いを提供してくださいます。だからこそ、一流のホテルには何度でも泊まりたくなるのですね。
どんなに能力や技術があっても、そこに心が存在していないとどうしても乾いた仕事になってしまいます。コンシェルジュのように完璧にはいきませんが、ただテキパキと仕事をこなすだけではなく、潤滑油として「笑顔」や「思いやり」を持てる人こそ、本当の意味で“仕事のできる人”ではないでしょうか。
もう一つ、仕事をする上で大切なマナーですが、職場についたら私生活は忘れて、仕事に専念すること。お茶の世界にも、ひとたびお茶室に入ったら日常のことは忘れて、お茶を頂くことを楽しむという理念がございます。仕事の時間は仕事に専念し、家庭に戻ったら家庭を楽しむ。そうやって自分の心を切り替えられる人が、社会の中でも信頼や成功をつかむのだと思います。
ですが、どうしても切り替えができないときもあります。もちろん、私にも。たとえば朝、家族とケンカをしてしまった。気分の悪いまま出社し、「おはよう」とあいさつされても気持ちよく返事ができなかったということがあります。
そのままずるずると悪い気を引きずっていては仕事になりませんし、周りにも嫌な思いをさせます。これでは、信頼関係どころではありません。
では、どのように心を切り替えるか。簡単なことですが、手を洗うとか、口をゆすぐ、お茶を飲むといったことを心がけています。
イライラしたまま職場のドアを開けるのではなく、ひと呼吸置いてみる。すると、肩に背負っていたものがさっと落ち、ふと我に返るような気がします。時間がないときなど、ウェットティッシュをカバンに入れておいて、手を拭くだけでも気持ちがさっぱりします。
私もそうですが、仕事が忙しくなると、「今日はご飯を食べられなかった」「お茶を飲む暇もなかった」と、一息つく時間もないようなことが多々あります。ですが、仕事を持つ大人として、忙しいときこそあえて、自分自身に休む時間を作ってあげてください。自己管理も大人の大切なマナー。ほんの少し意識して、心も体も休めてあげてください。 |