
私が本格的にお茶の世界に足を踏み入れたのは、20歳を過ぎてからでした。もちろん、家業で茶道具などを販売しておりましたので、小さいころから茶室や茶道具に身近に接する生活を送っていました。両親からは、「本当に茶道を習いたいのであれば、自分でお月謝を払えるようになってから」と言われていましたので、親の会社に跡取りとして入社するまでは、一度もお茶を習おうと思ったことはありませんでした。
茶道具を販売する際、お客さまからの質問にお答えできるようにと、やっと、重い腰を上げたのがきっかけでした。
はじめは、仕事の合間にお茶を喫する程度で、お点前の順番さえできればいいと思っていました。けれども続けていくうちに、だんだんお茶の魅力に惹き込まれていきました。
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お茶には、『利休七則』という心得がございます。
一、花は野にあるように
一、炭は湯の沸くように
一、夏は涼しく
冬はあたたかに
一、刻限は早めに
一、降らずとも雨の用意
一、相客に心をつけ候事
一つひとつに意味があり、茶道の精神を表しております。すべてに共通して言えるのは、「お茶をおいしく飲んで頂くためにはどうすればいいか」と、相手を思いやる気持ちが込められていることです。
お茶室では、その空間の中で自然を表現します。たとえば夏ですと、その時期に咲く草花を飾ったり、お客さまに涼んで頂くためのちょっとした趣向などを考え、お茶室を彩ります。
まず、床の間に掛ける軸にその日のお茶会のテーマを表わします。具体的に言葉で表すのは難しいですが、本でいう“タイトル”と同じです。茶道具の取り合わせもテーマと関連しています。お茶をされている方ならば、一目見て「ご亭主は、今日のお茶会はこういう思いで開かれているのだな」と感じて頂くことができます。ある種、推理小説みたいなものかもしれません。
普通、訪問の際は玄関でチャイムを鳴らしますよね。お茶の世界ではそういった合図はありません。ですから亭主は、ふすまを隔てた向こう側にお客さまが入られたかどうかを、お茶室の畳を歩くすり足の音で判断します。また、お茶室には「にじり口」という入り口がございます。その戸を少し開けておくことを「手がかり」と言い、「どうぞお入りください」という意味を表します。そうしたお互いの合図を通し、相手の状況や心情を察し合うのです。
「阿吽(あうん)の呼吸」とありますが、短い時間であっても心を通わせることで、ピタっとタイミングが合ってきます。普段の人間関係でも同じですが、相手のことが分かるとその場の楽しさも増しますよね。そこが、茶道の魅力なのです。
茶道という言葉には『道』という字があります。これは、ただお点前を覚えるだけでなく、どうしたらおいしいお茶を点てられるか、お客さまに喜んで頂くおもてなしとは何かという精神的な面が含まれていることを表しています。
一期一会の出会いの中で、心と心の触れ合いができる。茶道とはお互いを分かり合う最高の場であると私は思います。堅苦しく考えず、一度お茶会にいらしてみてください。楽しいひとときをご一緒に過ごしましょう。
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