美しく生きるエッセイ
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美しく生きる〜和を楽しむ13章〜

名残り月

秋の夜は、空気も澄んで冴え冴えとした月の光と虫の音、そして、すすきや萩の花の月にゆれる風情は、昔から和歌に詠まれ、日本人の繊細な感性の素晴らしさを、今さらながら感じてしまいます。どんなに忙殺される日々のなかでも、せめて節目、節目の季節を感じ、それを生活の中に取り入れる工夫くらいはしたいものです。日本人として、また人間として、心豊かな人生を過ごすためにも……。
個人的には、とりわけ秋は好きな季節です。
どうして、こんなにもすてきな季節がちゃんと毎年おとずれるのか、感動と感謝の気持ちがわいてきます。人はともすれば、自分のことで精一杯になり、自然の恵み、宇宙の偉大さを忘れてしまいます。
日本建築では、障子やふすまの絵などの意匠から季節を感じることができましたし、たとえば漆(うるし)工芸では、生活の器にも四季の花や自然のまき絵がほどこされ、床の間には、季節の掛軸がかけられていましたが、現代は、余りに西洋化して、生活空間は一年中同じで、そこから季節を感じる室礼(しつらい)が失なわれていきました。
たとえマンションの洋間の一室でも、創造と工夫ですばらしい季節の空間は演出できます。あなたのセンスの腕の見せどころです。あなたのそばに生えている草花一本から、生活にとりいれてみましょう。

伊勢神宮では、10月中旬から豊穣への感謝と祈りをこめて神嘗祭(かんなめさい)が行なわれます。
古来、稲には民族の生命源が宿るという信仰があり、稲そのものを神と崇(あが)め、神が新米を嘗める(=食べる)ことにより、米のイノチ(命)で神の威力が強く新しくなると、信じられていました。そして、なんといっても私たちの食卓にお米は欠かせませんし、日本人にずっと愛され、親しまれ、私たちを育み続けてくれた「ごはん」は、瑞穂の国・日本を象徴するいわば永遠の実りともいえます。

「豊かな実りの国」の恵みに感謝して、まず箸(はし)の取りづかい、そして茶わんや器の扱い方など、これを機会にぜひ身につけましょう。
どんなにすばらしい、おいしい料理でも、見苦しく、粗雑な食べ方をしたのでは、人間としての品性を失います。
躾は、内面の美しさが外へ形として表われたものです。ですから、食べ方でその人の品性が出てしまうともいえます。食べ方も美しく、それが大切です。
たとえ、どんなにブランド品でその身を飾っても……。

それには日頃が大事。さあ、明日と言わず、今から美しい食べ方に挑戦してみましょう。食べ終った時に、きっと心からさわやかな豊かな気分になれるはずです。
あなただけではありません。周りの方にも、どれほどさわやかな風を送ることができるでしょう。

たくさんの自然の恵みに感謝しつつ過ぎゆく秋を惜しみ、その感傷にひたりながら秋の名残りの美しさにふれてみるのも、心優しい気持ちをとり戻す一つです。美しいとは、心優しいということなのです。

萩の花 暮々までもありつるが
月いでて見るになきがはかなさ      源 実朝

和遊主宰・正冨るり子

 

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